◇2011年3月卒業式スピーチ
希望の船出
このたび東京保育専門学校の卒業証書を授与され、その結果、保育士資格と幼稚園教諭免許状を付与されることになった皆様に、職員を代表して心からのお祝いを申し上げます。目標とされた学業を成就されたのは、皆様の熱意とご努力の賜物であります。支援されたご家族ならびに御関係の皆様方のお喜びも一入のことと拝察いたします。正に御同慶の至りであります。まことにおめでとうございます。
昨年4月以来1年に満たない期間ではありますが、皆様と一緒に私も学ばせていただきました。特に聖職者の先生方による"心の持ち方"についてのお話には大変感銘を受けました。クリスマスミサの時には、晴佐久昌英神父様が、イエス様お誕生の絵本「あぶう! ばぶう!」を読み聞かせて下さいましたね。勇気づけられたのは私ばかりではなかったと思います。困ったときには「あぶう! ばぶう! だいじょうぶ!!」、困った人がいる時にも「あぶう! ばぶう! だいじょうぶ!!」です。
ノートルダム清心学園の理事長兼名誉学長のシスター渡辺和子先生からは、「置かれた場所で花を咲かせましょう」、あるいは「面倒だからすぐやりましょう」など、私たちの行動規範を前向きに変えるアドバイスをいただきました。レベルの高い愛アガペーにつきましても、渡辺先生は「私はピーマンが嫌いですけれども、大事な食べ物の一つとして認めています。嫌いな人に対してもその人の良い所を見つけて認めてあげましょう。それが愛です」と、分かりやすく説明してくださいました。さらには、渡辺先生がマザー・テレサの通訳としてお務めされた時の、数々のエピソードも紹介してくださいました。「マザー・テレサはどんなに疲れている時でも、人々に笑顔で対応されましたよ。不機嫌な顔は環境破壊の毒です」とまでおっしゃいました。レベルの高い愛や思いやりは、感情ばかりでなく理性と意志の力をともなうものであり、これこそが社会の健康を害する諸々の毒を消す解毒薬であることを示唆されたものだと思います。
さて、皆さまの学園生活を含む実社会の生活は、楽しいこと、嬉しいことばかりでなく、時には厳しく、苦悩も伴うものであったと思います。しかしながら克服した後は、苦難も最高の体験に変わります。卒業される皆様は今まさにそのようなひと時を迎えられていることでしょう。そして多くの方々が早速4月からプロの保育士、プロの教員としての活動を開始されますね。またほかの道を目指す方もいらっしゃるでしょう。いずれにしましても「置かれた場所で花を咲かせる」ために絶えず学び、変えるべきことは変えて自分自身を進化させることが肝要です。
歴史を紐解くと明らかなことですが、実はカトリックの世界も進化してきました。晴佐久神父様から、北京原人を発見した研究チームの一員であるピエール・テイヤール・ド・シャルダンはカトリックの司祭だったのですよと教えていただきました。テイヤールはこの世の中には生物の世界である生物圏ビオスフィアの他にヒトの思考力がつくりだす世界である精神圏(別名叡智圏)ヌウスフィアが存在すると提唱しました。テイヤールは人の社会的活動を全て抱合するとも言える精神圏が、愛と理性と叡智に満ち満ちた場を意味するプレローマへ向かって進化し、さらには、宇宙の謎や生命の仕組みの解明など自然科学上の真理探究が完結し、宗教上の真理と融合する究極の点として定義されるオメガ点に向けて進化するのだと考察しました。現代社会が直面している諸問題は大小を問わず、テイヤールが予言した進化の営みの過程で解消されていくのではないでしょうか。このような営みの基礎はミニプレローマであり、ミニプレローの増殖、成長、連携、統合が真のプレローマ創生につながるものと私は考えます。
卒業生の皆様に改めて申し上げます。社会を良くするのは、子どもから、皆様のまわりの小さな世界からです。愛と思いやりの心を忘れず、そのレベルをさらに上げて、ご自身とまわりの方々の幸せを確かなものにされることを祈念いたします。
卒業されると、本校は皆様にとって母校となります。同窓会のなでしこ会と連携して母校に母港の機能を持たせたいと考えております。必要であればいつでも補給と休養を兼ねて帰港してください。かって、イエズス会の会員がリスボンの港から出航しキリスト教布教のために世界各地に旅立って行かれました。皆様は本校を出港し、小さくとも新しいミニプレローマを目指して、「
いざ出発進行です。
それでは皆様、行ってらっしゃい!
(東京保育専門学校2011年3月卒業式スピーチ 松本勲武)