2012年3月卒業式スピーチ

幸せは信頼と自信の連鎖から

  卒業される皆様、大変おめでとうございます。皆様はご自身のご努力が報われてプロの保育者としての免許を手に入れられることを誇りに思い、お喜びのことと思います。皆様ばかりでなく、ご家族の方々そして関係者の方々と共にこの喜びを分かち合えることは、職員一同にとっても幸せでありがたいことです。ありがとうございます。

皆様は保育に関する専門知識や保育の技術・技能を習得されたわけですが、皆様それぞれに得手不得手があり、お一人お一人に固有のご苦労があったことでしょう。これからも課題ごとにレベルアップしていかれることと思います。卒業後も是非忘れないでいただきたいことは、晴佐久昌英神父様、ガエタノ・コンプリ神父様、そしてシスター渡辺和子先生などのカトリックの聖職者の先生方から懇切丁寧に教授していただいたカトリックの精神です。

さて突然ですが、英語でグラス・シィーリングという言葉をご存知でしょうか? 日本語に直訳するとガラスの天井ですね。私が初めてこの言葉を耳にした時には、昼は青空に浮かぶ雲を眺め、夜は星空や月を愛でることのできる超特大の天窓のような明るいイメージをもちました。しかし、これはとんだ勘違いでした。英語のシィーリングには天井という意味のほかに上限・障害という意味があります。米国で使い始められた時には、女性そして非白人等のマイノリティが能力に相応しい社会的地位を獲得し、活動範囲を広げようとする際に直面する差別や制約、すなわち暗黙で不当な社会的障壁を意味していました。

ですから日本語では見えない障壁と訳すべきです。また、このグラス・シィーリングが社会的な環境の一つとして存在するだけでなく、個々人が自己抑制したり、思考停止したり、自らタブー化したりする心理的な障害として心の中にも存在するのではないかと私は考えます。 

コンドリーサ・ライスが黒人女性初の国務長官になり、バラク・オバマが史上初の黒人大統領になったことからも分かるように、米国ではグラス・シィーリングが着実に壊れ始めています。日本ではまだまだ健在の様ですね!

昨年は、東日本大震災と原子力発電所からの放射能汚染という想定外の大参事に直面し、日本中が暗い気持ちに覆われていました。その時に人々を勇気づけてくれたことの一つは日本女子サッカーチームなでしこジャパンのワールドカップ優勝という想定外の快挙でしたね。この快挙の立役者の一人である澤穂希さんのことを知らない人はいないでしょう。澤さんの著書(夢をかなえる)を読むと、先述した米国の偉人たちと同じように"諦めない心""折れない心"をもって二つのグラス・シィーリングを乗り越えていった人であることがわかります。

"諦めない心""折れない心"を支えるのは何でしょうか? それは自信や自負です。ではどうすれば自信や自負がもてるのでしょうか? 山本直人さんが近著(世代論のワナ)の中で"自信は親から子に相続される"という面白い説を展開しています。あまりダメ出しを出されずに育った人たちは、一般的に打たれ弱い・ストレスに弱いと思われています。しかし分析結果は逆で、"ダメ出しを出されずに育った人たちは失敗や困難を教訓にして自分をスキルアップしていくことができ、いろいろな人とのコミュニケーション能力においても優れていて、幸せである"ということのようです。親が子を信頼し、子が親を信頼するという信頼関係のある社会的環境が子どもの自信や自負の形成に寄与し、結果として幸せをもたらすという良い連鎖反応が起こると理解できます。このような環境は、親子間に限らず、保育者と児童の間でも整えることができますね!

コンプリ神父様の先生のドン・ボスコ神父様は予防教育を実践された方です。規則を絶対視し強圧的に教育する強制教育とは対極にあるのが予防教育です。子どもを規制するのではなく信頼することにより、子どもが自信を持って健やかに伸び伸びと育つように仕向ける教育法です。晴佐久神父様は正にこの予防教育法の幼稚園でお育ちになったと拝察されます。子どもの頃に多動性障害的傾向があった神父様は、"良い先生に囲まれて幼稚園は天国の様でした。自分を理解してくれた先生がいたから厳しい集団教育の小学校に入っても辛くなかった。この世は生きていくに値する世界だと思った。"とお話しされていましたね。皆様には、晴佐久神父様の幼稚園の先生のような存在になっていただきたい、さらには晴佐久神父様のような素晴らしい人になっていただきたいと願っています。

最後になりましたが。 "皆様は神様に望まれてこの世に生まれてきました"

"神様は皆様をいつも見守っていてくださる真の保育者です""だいじょうぶ!"

と繰り返し、繰り返し励ましてくださった晴佐久神父様を信頼し、

自信を持って前に進みましょう。それでは皆様、行ってらっしゃい!

(東京保育専門学校2012年3月卒業式スピーチ 松本勲武)

(2013年06月11日更新)

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